こんにちは!
自然とつながる木の建築を設計している杉本です。
住まいで木を用いるときには、一般に塗装することが多いものです。
しかし、塗装の選択次第では目的に合わないものになり、意味がなくなってしまいます。
木の塗装の種類次第で人の身体にリラックス効果がもたらされるかどうかも変わります。
せっかくこだわった木の住まいや木の家具が、塗装によって意味のないもの・効果が低いものになっては、とてももったいないです。
塗装しないほうが、無垢の木・自然状態の木が持つ香りや手触り、ストレス低減効果を維持する効果は高いものです。しかし、耐久性や変色、清掃性も気になりますね。
そこで、今回は「無垢の木に施す塗装はどんな種別と特徴があるのか?」といったことから、お話しします。
次に、木の良さを活かし、身体に優しく健康的な住まいをつくるには
「塗装をどう考え、どう使えばよいか」具体的実例とともに説明します。
ぜひ目的に合った塗装を見つけて、木の力と魅力を活かしていただければと思います。
木がもつリラックス効果を知りたい方は、以前のブログもご参照ください。
「第2話 万病の元ストレスを低減させる家に住む:木の力の実証」
塗装の歴史
塗装の始まりを歴史からカンタンに見てみましょう。
先史時代、木の装飾品の美観・保護として用いられたのが塗装の一種である漆です。
現在のところ世界最古の漆は福井県の鳥浜貝塚から出土したもので、1万2600年前のものです。漆工製品として最も古いとされるのは、北海道の垣ノ島B遺跡から出土した装飾具で、およそ9000年前のものです。
これは中国で最も古いとされる浙江省跨湖橋(クワフチヤオ)遺跡から出土した弓の漆工製品より1400年以上早いものです。(下部に参考文献記載)
縄文時代からすでに人びとは宗教的あるいは権力の誇示として装飾品をつくり、塗装することで木を美しく見せ、木を長持ちさせてきたのです。
塗装はやがて建築にも用いられるようになり、社寺建築には漆塗りのほか、丹塗り、弁柄塗りなどの手法も生まれていきました。
船にもタールという塗料が用いられるようになりました。有名な所では、日本に開国を迫りに来たペリーの黒船がありますが、これは船に木材が腐るのを防ぐ黒いタールを塗っていたためです。
いろいろな塗料がありますが、ここで押さえるべきは効きの強い塗料ほど、厚い膜を張るということです。
次からは木部に施されるメジャーな塗装と、そのメリット・デメリットをみてみましょう。
内部塗装:ウレタン塗装のメリット・デメリット
塗装の種類は大きく分けると、表面に膜をつくるウレタン塗装などのタイプと、浸み込むオイル塗装などのタイプがあります。
ウレタン塗装のメリットは水を弾き、汚れが付きづらく掃除もしやすいことです。台所や脱衣室などの水廻りに採用するといいでしょう。見た目はテカテカした光沢がでますが、艶消しなどもあります。
デメリットとしては膜をつくるゆえに、木本来の手触りがなくなり固いものとなります。木の香りは残りません。
また新しく塗装することや、劣化した場合の補修はDIYでは難しいため、塗装専門業者にお願いするのが一般的です。
内部塗装:オイル塗装のメリット・デメリット
内部塗装の代表的なオイル塗装のメリットは、木本来の手触りを残せることです。木目の美しさを引き立たせて、自然なツヤを出す効果もあります。
作業はDIYでも可能なことも利点です。膜をつくるわけではないので、無塗装ほどではありませんが、木は呼吸できます。
デメリットはウレタン塗装に比べると経年で色があせやすく、染みもできやすいです。塗料の香りもあるため自然の木の香りのまま、というわけにはいきません。
しかしウレタンのように膜を張ってしまうわけではないので、木の香りはある程度残ります。
外部塗装:塗装のメリット・デメリット
木部で悩ましいのが外部の塗装です。
厚い塗膜の塗装のメリットは、薄い塗膜の塗装に比べて長持ちすることです。デメリットは、塗膜が厚いほど、木の木目や質感が消えてしまうことです。
木の木目や質感を活かしたい場合には、クリアタイプや色・塗膜の薄いものを選ぶ方がよいでしょう。ただし、変化はその分早いため定期的な塗り直しが必要になります。
一般に色が濃いもののほうが塗装の被膜効果が高い傾向があります。好みの色がなければ調色してつくることも可能です(代表的な塗料にキシラデコールなど)。
木は放置するとグレーなどに変色していきますが、変色後では塗り直しすることは困難です。ウッドデッキや木の塀など、どうしても雨が当たりやすいので経年変化しやすいです。
外部は香りや成分よりも見た目を重視したい方は、耐久性に秀でた塗料が望ましいでしょう。健康的なこだわりがある場合や無垢の木の変化が好きな方は、自然系塗料をおすすめします。
人の身体に安全な塗料とは?
人の身体に安全で、木のもつ良さを活かすには自然系塗料がオススメです。メジャーな塗料の1つとしてオスモカラーをご紹介します。
オスモカラーはひまわり油、大豆油、アザミ油と植物性ワックスからできています。オイル系であり、木材に浸透して木の質感を残しつつ保護します。ひまわりなど再生にそれほど時間がかからない植物を利用しているため、環境持続性が高い塗料です。
オスモカラーに限りませんが、自然系塗料は無垢の木の質感や調湿性を損なわないようにつくられています。無垢の木を長持ちさせ、メンテナンスも容易にすることも目的です。
また、ホルムアルデヒドなど人体に有害な物質を使用しないことを重視してつくられています。ただし、人の身体に対する影響は個人差があるため、心配な方は各メーカーさんに成分等をご確認された方がいいでしょう。
ペンキやウレタン塗料は、合成樹脂を含むため自然には分解されません。オスモカラーの場合は、自然由来の原料でつくられているので自然分解され、自然に還ります。
有害な化学物質を含まず、自然に分解され地球に還れるオスモカラーは、人の身体にも優しい自然系塗料です。
塗装の種類まとめ
まとめると塗装は厚い塗膜のものほど、長持ちする傾向があるということです。ただし、厚い塗膜のものは木が本来持っている手触りを無くしてしまいます。
「汚れ防止やメンテナンス性重視なら、ウレタン塗装」がよいでしょう。
「手触りを無垢の木に近づけつつ、質感を残したいなら、オイル塗装」を選ぶのがオススメです。
「自然のままの木の成分を保持し、リラックス効果をもたせたいなら、無塗装」がベストといえます。
塗装することで木のもっている成分が変化することをふまえて、選択するといいでしょう。
塗装以前に大事な家のつくり方
塗装について、大事な基本もお話しします。
たまにテレビで年代物の家屋の改修プロジェクトなどありますが、土台や柱にダメージが大きいのは湿気が多く通風性が低い部分です。塗装すれば問題が解決するものではありません。
伝統的な民家の多くは塗装せずとも数百年建ち続けています。木の寿命を左右するのは、屋根の軒をしっかりと伸ばして雨が木部にかかりづらいような形態にすることと、木が濡れても乾きやすい通風性があるかどうかです。
日本の伝統的な社寺建築の多くを見てみても、やはり深い軒で柱や梁、壁を濡れづらいよう保護し、風が吹き抜けるつくりです。
現代の家でも、外部では木部に屋根がかかっているか、雨が当たりづらく、当たったとしても乾きやすい状態になっているかが塗装以前に重要です。雨ざらしで木が変色したというのは、当たり前なのです。
人体に有害性のある木の防腐剤
木に塗る中でも、防腐剤のことは木の性質や人の健康に関わる重要なことなので、お伝えいたします。
建築基準法施行令第49条2項では、
「…土台のうち、地面から1m以内にある建物の構造に関わる部分には、防腐防蟻処理を講ずる…(中略)…措置を講じなければならない。」
とありますが、これは防腐剤を塗装しなければいけないという意味ではないことに注意が必要です。ヒノキやヒバといった耐久性樹種を採用すれば、そもそも防腐剤を塗布する必要はありません。
木材の防腐剤や防蟻材には強い薬剤などが含まれていることがあります。これらを含む空気を吸入した場合、 倦怠感、頭痛、めまい、嘔吐、くしゃみ、鼻炎などの症状を示す場合があります。
身体の安全性を考えると、自然系の防腐材(塗料)か耐久性樹種の使用がよいです。
ご要望に合わせた塗装の実例
塗装は木をどのような状態にしたいかで決めることです。特に無垢の木の手触りや香りが好きなら、木のもっている成分を塗装で閉じ込めてしまうのは、もったいないところ。でも、経年変化や掃除のしやすさも何とかしたい。
そこで具体的に同じ住まいでもご要望に合わせて、塗装を使い分けた例をご紹介します。
2階LDKと水廻りの床は木の見た目や清掃性を重視して、ウレタン塗装としました。
ロフトの床や1階の寝室は木の手触りや自然に近い質感を残したかったので、オイル塗装です。木の香りも弱まるものの残りますし、木目が引き立つなど見た目を美しくする効果もあります。
同じ1階でも将来の子供部屋は自然のままの木の香りや成分を活かしたかったので、塗装を行わないという選択をしました。
軒天に関しては雨が直接当たらないため、キシラデコールのやすらぎというクリアに近いものを採用しています。バルコニー手摺も同様です。身体に触れることはあまりない箇所ですし、屋外で木の成分を保持する必要性は低いため、見た目重視の塗装です。
塀は同じくキシラデコールのやすらぎですが、これは軒がかかっていないため定期的に塗り直しをしています。
最後に、木の状態から塗装の考え方をまとめます。
まとめ:木の良さを活かす塗装方法
そもそも木は、同じ樹種であっても、状態によって持っている成分や力が変わっています。
高温人工乾燥させた木材は、自然乾燥や低温乾燥に比べ、香りや成分が残りません。ということは、どちらかといえば見た目を保持する塗装を考えればいいと思います。
天然乾燥か、低温乾燥による木材は木本来の香りや成分がより残っていますから、これに厚い塗膜を張る塗装を施すのはもったいないところです。
シンプルにいうと、木が変化しても木本来の成分を活かしたいなら、無塗装の方が良いです。
木の耐久性や変色、清掃性が気になるのであれば、塗装を施したほうが良いです。
どっちか迷う!方は、場所に合わせて柔軟に塗装を選択すればよいでしょう。
木の成分や性質が変化することもふまえて、塗装を選んでいけば美しさや持ちを、より希望のものに近づけることができます。
長い目で見れば、少しずつ木の表情は変化してきます。それは木が生きているからでもあり、そうした変化も時が刻んだ美しさとして楽しめるといいと思います。
軒の出や庇、通風性といった住まいのかたち、木の性質や乾燥状態、木を使用する場所、そしてより自然に近い木を望むかどうかが大事なのです。
こうした要素、家づくりの要望を塗装のコストに合わせてバランスさせれば、木の良さを活かした、より身体にやさしく美しい素敵な住まいが生まれることでしょう。
最古の塗装についての記述はコチラ →
「縄文時代の歴史」
今回の実験についてさらに詳しく知りたい方にオススメの本 →
「木材セラピー: 木のやさしさを科学する」
最後までご覧いただきありがとうございます。
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