第3話 無添加住宅で身体に良い家へ:化学物質のない珪藻土の力

自然

こんにちは!
自然とつながる木の建築を設計している杉本です。

 

近年、流行語ともいえる「無添加」。

無添加食品や無添加の素材といった話題は、大変多いものです。これは、日々の食事や住環境がいかに健康的な身体をつくるために重要か、多くの方々に認知度が高まってきたためでしょう。

最近は大手コンビニであるセブンイレブンさんも、添加物の少ない商品を置くようになってきましたね。無添加住宅とうたう建築も大変多いものです。

無添加は特に食に関して用いられることが多いものですが、「添加物が全く入っていない」というものではありませんよね。例えば無添加やオーガニック、天然、自然をアピールする商品でも、製品表示を見ると部分的に添加物が含まれるものが多々あります。

添加物を使用すれば、美味しい・製造しやすい・なめらかな食感になるなど大変便利です。しかし、人によっては摂取する添加物で体調が悪くなってしまう方もいらっしゃいます。

 

これは建築の素材においても全く同じです。「自然素材」「無添加建材」に、添加物が加えられているか否かは、とても大事なポイントです。
(※本記事ではホルムアルデヒドなどの化学物質を、建材での添加物としてお話を進めます。)

 

そこで今回は、自然素材の中でもメジャーである「珪藻土」をテーマに取り上げます。

まず「珪藻土とはなにか」「珪藻土のメリット・デメリット」といった内容から、分かりやすくお伝えします。

次に、珪藻土の効果を落としてしまう添加物のことや、添加物が混ざった珪藻土によってニュースになった事例などをご紹介します。

最後には添加物のない珪藻土の具体的な実例について、ご紹介します。

正しい珪藻土を選んでいただき、無添加で身体に良い家づくりにお役立ていただければ嬉しいです。

今回のお話は、無添加のことや健康的な身体づくりに興味がある方に、特にオススメです。

 

 

便利な添加物が身体へ与える影響

私自身、添加物をなるべく使用しない生活を心がけています。

とうのも、私の場合は摂取する添加物によって、身体に影響が出るためです。そこまでひどい症状ではないのですが、顕著に身体に現れる例として挙げるなら、(あまり良くない)油を取ったときがあります。

建材の使用でも影響がでることがあります。添加物の含まれた建材を切断した時に出る、粉塵を吸引した時です。建築現場で吸い込むと、くしゃみが止まらなくなります。現場を離れると止まります。

建築の材料には木を原料とするものでも、製品になる過程で添加物が含まれているのです。代表的な添加物としては、接着剤です。

このように身体に添加物の影響がでますが、食事に気を付ければよいですし、建材は原因がはっきりわかっているので、悲観的には感じていません。知っていれば生活への対応が可能ですし、原因がわかれば安心できます。

おそらく症状が身体に出なければ、添加物に気を使うこともなかったでしょう。自炊や食品探し、健康的な飲食店を探すなど、これまでと違った楽しみもできました。ものすごくガマンしているわけでもなくて、知人友人とワイワイするのも大好きなので、外食も普通に行きます。

むしろ、身体に影響が出たので調べ、学ぶことができました。結果、多くの方々が健康でいられるための建築をお伝えできるので、ありがたいことだと思っています。添加物や化学物質で身体へ影響の出る方、アレルギーなどで苦しんでいる方の気持ちがとてもよくわかります。

多くの方々が少しでも健康的な家に住んでいただきたい、というのが私の願いです。ご存じの方も多いと思うのですが、身体への有害物質は蓄積されてしまうので、症状が出てからでは遅いのです。私は30代前半まではほぼ無症状でした。

 

そもそも珪藻土って何?

ここから自然素材である珪藻土の説明をします。

珪藻土は藻類の一種である、珪藻という植物プランクトンの死んだ殻が800万年〜1000万年沈積し、化石になった堆積物のことです。

珪藻土の例

殻には目に見えない細かい穴が無数に空いています。この穴のおかげで、消臭・断熱・調湿・ホルムアルデヒド吸着分解といった性能が発揮されて、室内環境を整えてくれるのです。

室内の湿度が高ければ、余分な水蒸気が珪藻土の穴に付着し、室内の湿度を下げてくれます。室内の湿度が低ければ(乾燥すれば)、珪藻土に蓄えられた水蒸気が、室内に戻ってきて室内を潤してくれます。

不思議なことに珪藻土が水蒸気を吸放湿するタイミングは、人が快適と感じる湿度帯に近いものです。それゆえ、珪藻土の塗り壁にすると、人は快適に感じるのです。

 

歴史を見てみると、珪藻土は古代ギリシアのころから利用されてきたことが分かります。

古代ギリシアでは、建築材料である軽量レンガや研磨剤として用いられました。今はみなさんご存じのように、左官材として人気ですね。

七輪の原料でもあり、殻を粉砕・混錬して焼成するなどすれば七輪となります。輪島塗では器を丈夫にするために、蒸し焼きにした珪藻土を漆に混ぜて用いています。

七輪

 

アイヌ民族は珪藻土を汁物のとろみ付けや、山菜にあえて食しました。江戸時代は飢饉の際に食べられることもありました。(食べ物ではありません。念のため、、)

ビールの酵母、雑菌を取り除くろ過材として珪藻土が利用されています。温度を上げずにビールの雑菌を取り除けるので、美味しく仕上げるのです。

ビール

 

このように珪藻土は、建材から調理器具、美味しいビールをつくるなど、多方面で活躍してくれる偉大な自然素材です。

 

珪藻土の5つのメリットとデメリット

珪藻土のメリットを5つご紹介します。

1. 調湿・吸放湿による防カビ、防ダニ、結露対策:室内の湿度を快適な状態にコントロールしてくれます。アレルギーやアトピーの原因となるカビの発生、ダニの繁殖を抑えてくれます。吸湿してくれるため、結露対策としても効果が高いものです。

2. 消臭・脱臭によるトイレ、ペット、タバコ臭対策:トイレ、ペット、タバコといった気になる匂いを珪藻土が吸着してくれます。住んでいると気づきづらい生活臭も消してくれるため、来客者があっても安心です。

3. ホルムアルデヒドの吸着分解によるシックハウス対策:シックハウスの原因となるホルムアルデヒドといった揮発性有害化学物質を吸着し、分解してくれます。

4. 断熱・遮熱効果による省エネ対策:珪藻土がもつ穴は空気層になります。空気層は熱を通しづらいという特性があるため、壁や天井に塗ることで断熱性能を高めます。

5. 二酸化炭素吸収によるCO2削減効果:珪藻土は二酸化炭素を吸収する効果もあります。使用するだけで、CO2削減効果がある住まいとなります。

 

デメリットは正しい使いかたをしないと効果が低くなることです。

例えばカビはカビが生える条件がそろえば、発生します。珪藻土をある部分に少しだけ塗っても、それ以外の面積が多ければカビを抑制することは難しいでしょう。

また、これは珪藻土を使用した場合に限りませんが、自然素材を用いた住まいは生きています。そのため、窓を開けて、自然素材の息ができるように換気してあげることも大事です。

ここからが本題ですが、珪藻土のメリットをデメリットにしてしまうのが、化学物質です。なぜ珪藻土に化学物質を加えた製品が存在するのか、漆喰との違いからお話しします。

 

珪藻土と漆喰の違い

漆喰は消石灰が原料ですが、石灰石からつくります。

石灰石は、太古のサンゴ礁(牡蠣、ハマグリ、ホタテ、シジミなど)が長い年月をかけて地殻変動などで隆起し、陸地になったところから採掘できます。石灰石を1000度以上の高温で熱した後に冷ませば、消石灰となります。この消石灰に水・のり、繊維を加えれば漆喰となります。

不燃材で、強アルカリ性です。強アルカリ性という性質が防カビ性ということにもなります。空気に触れることで硬化するので、きちんと密閉すれば保管が可能です。
珪藻土より水に耐性があるため、外部でも問題なく使用できます。

漆喰は自分で固まることができることがポイントです。

法隆寺夢殿。外壁の白い部分が漆喰

 

珪藻土は前述したように、珪藻の殻の化石を原料にして作られたものです。

殻(土)を原料として、1000度以上の熱を加えることで不純物を除去して、純度を高めます。

焼成した珪藻土

 

多孔質ゆえに、先ほどお話しした調湿性能や脱臭性能は珪藻土の方が優れています。つまり室内環境を調整してくれる性能は、珪藻土の方が高いということです。

ただし、珪藻土は漆喰のように、自ら固まることができません。そこで、珪藻土を固めるために同じ自然素材である漆喰(消石灰)をつなぎ材とすることが重要です。

こうしてつくった珪藻土は、調湿・消臭といった効果が高く、人の身体に対しても安全・安心なものとなります。

 

このような珪藻土の仕組みをみると、珪藻土がなぜ身体に良い環境をつくってくれるか分かりやすくなりますね。

 

珪藻土の効果を落としてしまう化学物質

珪藻土は自ら固まることができないとお話ししました。固めるためには、「自然素材系」「合成樹脂系」のどちらかが必要です。合成樹脂は安価ですし、性能的にも便利なので用いられることが多いです。

ところが、人工的な合成樹脂系では、珪藻土の最も重要な特質である、調湿効果等に威力を発揮する無数の穴をふさいでしまうのです。また、合成樹脂は万が一火災となった場合、有毒ガスを発生してしまいます。

 

見た目だけではなく、化学物質を用いない、自然素材としての性能を活かした珪藻土を、どうすればつくれるのかということです。

この課題を解決してくれる自然素材こそ、同じく自然素材の漆喰なのです。漆喰の原料である、消石灰をつなぎ材として用いれば、接着剤は不要となります。

 

昔と現代で漆喰をつくるために用いられた材料をわかりやすく比較すると、下記のようになります。

 

漆喰をしっかり下地材に付着させるためには、
「つなぎ材」と「材料の粘性」が重要です。

漆喰に「つなぎ材」として用いられたものは、

昔ならスサやワラです。

現代の化学製品としてはポリエステルです。

役目はひび割れ防止や乾き具合の適正化です。

カサを増すための材としても利用されます。

 

漆喰に「粘性」を出すために用いられているのが、

昔なら海藻(海苔)です。

現代の化学製品としては合成樹脂です。

 

現代では開発が進んで漆喰は、

消石灰・骨材(消石灰を利用)・海藻(など)・水

でつくることが可能となりました。

消石灰を製造する技術が向上したため、つなぎ材が不要で、
さらに割れづらい上に、化学物質を使用しなくても製造可能です。

これが添加物のない漆喰となります。

この漆喰(消石灰)の性質をつなぎ材としての役割と、
粘性をだすために利用すれば、自然素材による珪藻土ができます。

 

 

次は、思わぬ事件で悪者にされてしまった珪藻土のお話をします。犯人はつなぎ材として用いられた、人工的な化学物質でした。

 

珪藻土に発がん性はない

2020年、某メーカーの珪藻土バスマットに、アスベストが含まれているということで、商品の回収騒ぎがありました。

主に輸入製品でした。チェック体制の問題でもありますが、アスベストというものは肉眼で検知することは困難です。詳細な検査を行ったとしても、選んだ検体にアスベストが含まれていなければ、スルーしてしまいます。

このアスベストに発がん性があるので、大問題になりました。

アスベストを使用した理由は、珪藻土のつなぎ材として使用し、割れや強度を高めるためです。アスベストのような化学物質は、確かに便利ですが、人の身体に深刻な被害をもたらせます。

アスベストを用いれば楽に作れるようになるので、コストが下がります。それによってアスベストを使って利益を得ようとする業者が現れます。そもそもアスベストを使用する業者と取引しないことが、再発防止にもっとも効果的です。

アスベスト含有建材(アスベストが0.1重量%を超えて含有するもの)は労働安全衛生法施行令により、2006(平成18)年9月から、製造・使用等が全面的に禁止されています。
→ リーフレット

厚生労働省の「石綿(アスベスト)を含む流通製品の情報について」はコチラから確認できます。

 

そして、結論としては、珪藻土に発がん性はありません。

珪藻土に発がん性がないため、七輪や輪島塗、さらにビール製造で用いられているわけです。IARC(国際がん研究機関)でも、珪藻土は分類3の、「ヒトに対する発がん性について分類できない」ものとしています。

この事件によって、珪藻土自体はまったく悪くないのに誤解され、敬遠されることになってしまったのです。

 

まとめ:無添加住宅で身体に良い家へ

「自然素材」というワードはイメージがよいため、利用されることは本当に多いです。

しかしその自然素材には何が含まれていて、含まれた材料によって、どのような性質をもつにいたるか、ということが重要です。

せっかくこだわって自然素材を使用したのに、本来の効果が発揮できていないことは避けたいですね。

 

添加物に対して重要なことは次のようになります。

食にしても建材にしても(個人差がありますが)、体のキャパを超えて摂取してしまわないようにすることです。アレルギーは一度発症してしまうと、再発しやすくなるためです。

発症後に健康的な環境で生活することは有効ですが、完全に治癒するのは難しい。なので、特に子供など小さいころから長い時間を過ごす住環境は、本当に大事なのです。

 

最後に実際に杉本龍彦建築設計で、珪藻土を使用した事例をご紹介します。

ぜひ、無添加住宅で身体に良い家づくりの参考にしていただければと思います。

 

使用した珪藻土は、株式会社ワンウィルさんの「FINISH ONE」のホワイトです。

ワンウィルさんは、1998年の販売開始から国内での開発製造を貫いています。調湿性を有するとともに、ホルムアルデヒドの低減性を有する内装仕上げ材として特許も取得しているものです。

珪藻土のつなぎは、同じく自然素材の漆喰を用いているため安心です。珪藻土の調湿や消臭、防火、吸湿効果を実験して動画で公開しているところも、素晴らしいと思います。

 

この珪藻土を使用した事例は、大阪の心斎橋の女性専用パーソナルトレーニングジムです。

お客様が外見だけではなく内面からも美しくなっていただくために、トレーニングルームを健康に良く安心な自然素材の仕上げで包むことが重要なコンセプトでした。

心斎橋のジム。柱と梁型は無垢ヒノキを無塗装仕上げ、天井の垂木はスギ無垢を無塗装、白い部分が珪藻土

左官の珪藻土や天然麻タイルカーペットも無垢の木と合わせて採用することで、調湿や消臭、有害物質の吸着分解などの効果に秀でています。

飾り棚にはトレーニング用の器具がおかれる予定。床は天然麻タイルカーペットで調湿効果がある

 

珪藻土と垂木のスギ無垢アップ。珪藻土の左官仕上げはあえてテクスチャをつけてもらい、手仕事がやさしく現れるようにした

忙しい日々の仕事や過密な都市から開放され、落ち着き癒されるオアシスのような場所をつくること。自然素材の優しさや柔らかさを活かし、森の中を歩いているような空間をつくることが目標でした。

 

実際に見学をご希望の方、ジム内部空間の動画を見てみたい方はお気軽にメッセージいただければと思います。

 

いずれにしてもいちばん大事なことは、設計者として自然素材の正しい知識・事実を、多くの方々にお伝えすることだと思っています。

そして、お施主様のご要望に合わせて、自然素材がより活きる提案をすることです。

 

自然素材の正しい理解と活用で、多くの方々が心身共に健康になっていき、明日からの世界がより安心して楽しく過ごせるよう貢献したいと思っています。

 

 

珪藻土をもう少し知りたい方へオススメの書籍も下記に載せておきます。珪藻土と漆喰の基本的な知識習得や、DIYにトライしたい方に。写真も豊富です →

簡単! 住まいのDIYマニュアル 壁塗り [珪藻土・漆喰]

 

 

最後までご覧いただきありがとうございます。

ご感想やご質問などあればお気軽にメッセージいただければと思います。

 

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