第2話 万病の元ストレスを低減させる家に住む:木の力の実証

自然

こんにちは!
自然とつながる建築を設計している杉本龍彦建築設計の杉本です。

 

風邪は万病の元といいますが、ストレスも万病の元です。

ストレス状態が継続すると免疫機能が低下し、脳卒中や高血圧、ガンなどの病気になる可能性は高まります。免疫機能の低下は感染症への抵抗力を下げてしまいます。また、ストレスによって、生活習慣病やアルコール依存症へとつながることも少なくないものです。

がんに自律神経が影響することを発見」国立がん研究センター

 

多くの方々が人生で長い時間過ごす家は、ストレス低減効果が高い家であってほしいと思います。そこで活躍してくれるのが、「木」です。

近年の研究で、木は「人の身体にリラックス効果をもたらせる」効果があることが実証されました。

 

しかし、家に木を効果的に取り入れている事例は現代の住宅では多いと言えません。これは、とてももったいないことです。

これは、家に木を取り入れるメリットや方法が、きちんと知られていないことが原因の一つでしょう。

そこで木がもつリラックス効果を、歴史や実証された研究から分かりやすくお伝えします。同時に具体的な木の使用方法もご紹介します。

ぜひ木の力を活かして、心身ともに健康になれる家に住んでいただけたらと思います。

 

 

人類の理想の生活環境とは?

まず、人がどれくらいの時間を木とともに過ごしてきたのか、大まかにお話しします。
今から700万年前頃のこと。気候変動によって世界各地の大陸では森林が減少し、草原が拡大していきます。食べ物の多い森では、生存をかけて熾烈な縄張り争いが始まります。

アフリカをみてみると、ある類人猿がしょんぼりと森からでてきました。縄張り争いに負けてしまったこの類人猿が、私たちの祖先、ヒト(初期人類)です。

腕力ではゴリラやオランウータンに勝てず、エサをとる素早さではサルに敵いません。草原に住もうにも、鋭い牙や爪をもつライオンやヒョウに襲われればひとたまりもありません。

 

仕方なく、木がまばらに生育する疎林に住むことにします。ここならエサは少ないですがライバルも少なく、肉食動物が来ても木の上に逃げられます。こうして住む環境を疎林としたのです。

疎林:木がまばらに生育している環境

 

メスとの間には子どもが生まれますが、草食動物のように誕生後1~2時間で歩くなど不可能です。危険すぎて一緒にエサを取りに行くことなどできません。そこでオスがエサを探しに出かけ、メスは子どもと共にホームベースにとどまることにしました。

エサを無事手に入れたオスでしたが、四足歩行ではうまくエサをもったまま歩けません。やむを得ず二足で立ち上がり、両手でエサを持って歩きはじめました。こうしてヒトは、動物として唯一、直立二足歩行するようになったのです。

ちなみに二足で立ったのは、立ち上がって遠くを見るためという説もあります。しかし、同時に敵からも見つかりやすくなってしまいます。

ライオンに「私はここにいます!」と言っているようなものなので、説としては論拠が弱く証拠もありません。

 

ヒトはホームベースで身を休ませるために、樹上で木の枝や葉を組み合わせて寝床をつくったでしょう。同じ類人猿のゴリラも、毎日枝で木の上にベッドをつくります。チンパンジーもオランウータンもボノボもつくります。

寝る場所が毎日同じとは限らないため、恒久的な巣をつくる意味はないのです。数百年前の初期のヒトがつくった住居は、こうした仮設の巣のようなものだった可能性が高いです。

つまり樹上の住居こそ、住居のはじまり・源なのです。木でつくられた住居は、ヒトの命を守ってくれる大切な器でした。

ツリーハウスは現代でもなかなか人気ですが、かつて樹上を住居としたときの記憶からなのかもしれません。私も子供のころ、ツリーハウスづくりに取り組みました(笑)

 

このように疎林の自然環境と木そのものはヒトが生きていくために欠かせない存在だったのです。木が生存のために欠かせない重要なものだという意識は、私たちのDNAに記憶としてしっかりと刻まれ、受け継がれていきました。

 

人が都市の中で過ごした時間はわずか

一方で、現在のような超高層ビルが林立する都市化が始まったのは、戦後の高度成長以降で約70年ほど前からです。そうすると都市生活での時間は、人類誕生以来森の中で生きてきた歴史の時間に比較すると0.00001%以下です。

ヒトの遺伝子というものは数百年単位では進化できませんので、都市のような人工的な環境には身体が適応しづらいのです。コンクリートやプラスチックといった工業製品・化学製品が多用されがちな都市で、ストレスを感じても無理はありません。

改めてわたしたちが生活する空間を見渡すと、木のテーブルやイスといった家具、フローリングから木目の壁紙まで、木につながる内装材や製品にあふれていますね。

 

研究・実験での計測方法とリラックス・ストレスについて

まず研究・実験での計測方法とリラックス・ストレスについて、はじめにかんたんにお伝えします。

研究は、千葉大学の宮崎良文先生による「木が人の体にどのような影響を及ぼすかについての研究」からご紹介します。

研究は客観的な計測方法で行い、自律神経活動の同時計測によるデータとなっています。

自律神経は身体の各器官を調整してくれるため、とても大事な存在です。また、自分の意志で自由に動かすことができません。(胃で食べ物を消化する、汗をかくなど)この自律神経の計測値によって、身体の状態がストレス下にあるか、リラックスしているかわかります。

免疫細胞の代表にNK細胞があります。これはウイルスや異常な細胞をやっつけてくれるものです。ところがストレスを受けるとNK細胞(免疫機能)が低下してしまいます。つまりストレス状態が長いほど、ガンなどの病気になる可能性が高くなってしまうのです。

社会的・心理的な要因で仕方なく受けてしまうストレスは、なんとも困ったものです。
しかし、木をうまく居住環境に取り入れれば、ストレス低減に大活躍してくれます。木は自分の意思でコントロールできない自律神経に働きかけてくれる、偉大な存在なのです。

 

木に触れることによるストレス低減効果

では、木が身体に与える影響を、木に触れた時・触覚の実験から見てみたいと思います。

木に触れることによるリラックス効果の実験は、木材とステンレス、タイル、大理石といった他の素材を比較して行われました。

測定方法は素材に手をのせるシンプルなものです。その結果リラックス効果はステンレスに比べ、大理石は+約8%、タイルは+約11%となりました。木材(無塗装)に触れた時のリラックス効果は高く、+約42%にもなりました。

ヒノキ無垢フローリング

 

また、木材に足で触った時のリラックス効果も、手で触れた時と同じようにあることがわかりました。

注意点としては木の塗装の違いによって、リラックス効果が異なることです。塗膜の厚いウレタン塗装と比べると、木の質感が残るオイル塗装は+約20%、無垢材は+約29%のリラックス効果がみられました。

ウレタン塗装済のナラ無垢フローリング

 

つまり無垢そのままの木に比べると、ツルツルテカテカにコーティングされた木は、リラックス効果が低くなるということですね。

なお塗装は木目を引き立たせる効果や、木の経年変化をコントロールする効果もあります。希望と合わせて選ぶとよいでしょう。

また同じ木を原料としていても、ベニヤやシナランバコアといった接着剤を用いてつくられた加工材料の場合、無垢の木の本来の手触りはありません。

ベニヤ

 

木の香り・嗅覚によるストレス低減効果

次に木の香り・嗅覚によるストレス低減効果をお伝えします。
実験では、本来の木の香りが残った天然乾燥ヒノキ材を、チップ化して嗅いでもらいました。

結果、前頭前野活動が沈静化して脳はリラックス状態を示しました。ヒノキ葉油の香りの実験でも、同じくリラックス効果をもたらせてくれることが分かりました。

数値的にはヒノキ葉油で約34%、ピネン(ヒノキやスギに含まれ、香料の原料でもある)は約46%のリラックス効果を示す副交感神経の上昇がありました。

少しまぎらわしいのですが、副交感神経の上昇は、リラックス状態がより高まっていることを意味します。

木の香りによるリラックス効果の恩恵を受けたい時は、自然の天日や通風などを利用する、天然乾燥が望ましいことが注意点です。
普及している人工高温乾燥は、100度ほどの高温で木を急激に乾燥させる方法なので、木本来の香りや成分が飛んでしまうのです。

心斎橋のジム。ヒノキ無垢板を無塗装のまま張った

 

木を見ることによるストレス低減効果

続いて木を目にしたとき・視覚でのストレス低減効果です。
木を目にしたことによるリラックス効果の実験は、スギ板材節なし、スギ板材節あり、グレーの壁の3つで比較されました。

横使いの無節杉板。

 

結果はグレーの壁に比べると、どちらのスギ板材も、リラックス効果をもたらせてくれることが分かりました。なお木目を縦にしても横にしても、リラックス効果に違いはありません。

面白い点としては、節なし材では交感神経活動が-約38%と低下(ストレスが減るように作用した)したことに対し、節あり材では副交感神経活動が+約38%上昇(リラックス状態が高まるように作用した)ということです。

どちらもリラックス状態になった点では同じですが、なぜ異なる神経が変動したのかはわかっていません。これは今後の研究テーマでもあるようですが、いずれにしても節あり、なしを問わず木を見ると人はリラックスできるということです。

 

部屋(床、壁、天井)に対して木が占める面積によっても効果の違いが出ることもポイントです。木が部屋に対して35~50%程度の割合の時がもっともリラックス効果が高いものでした。
興味深い点としては、70%、80%と上昇するにつれて逆に興奮するような状態になったことです。

 

お施主様のご要望に合わせて木の恵みを最大限活かす

大切なのは、木に触れることによる効果をふまえた上で、木を選ぶことです。以前私が設計した住まい実例としては、お施主様のご要望に合わせて木の状態を選びました。

お子様の個室は無垢の木の良さ、つまり手(足)触りを最大限生かすため、ヒノキの無垢フローリングを無塗装のままに。

無塗装のヒノキ無垢フローリング

 

一方で同じヒノキ無垢フローリングを用いた玄関や廊下は、通行が多いためオイル塗装に。オイル塗装であれば、木本来の手触りはかなり残ります。

オイル塗装したヒノキ無垢フローリング

 

どうしても汚れやすいダイニングキッチンや水廻りの床、食卓天板は、ウレタン塗装を採択しました。一方で造り付けのTV台はオイル塗装です。

ナラ無垢フローリングの床、食卓ともにウレタン塗装。右側の造り付けTV台はオイル塗装

 

視覚的な木のストレス低減効果も考慮し、木の占める割合が部屋に対し、40~50%程度にした実例もあります。

 

木の使い方のまとめは以下のようになります。

無垢の木に触れるのが好き、無垢の木の良さをなるべく活かしたい、という方はなるべくオイル塗装などの塗膜が薄い方法か、無塗装が良いと思います。

木の状態による効果の違いと住まいかた、木の変化を踏まえたうえで、柔軟に木をどう使うか、どう選ぶか考えれば、より木のリラックス効果も発揮できるのです。

なので、お施主様のご要望に合わせて、多種多様な提案ができることが設計者の大切な仕事だと思っています。

木の性質を把握した木の空間がもっと増えれば、日々のストレスを低減して健康で過ごせる住まいがさらに生まれてくることでしょう。

 

まとめ

お伝えしたように人類は、700万年前から木とともに暮らしてきました。

現在のわたしたちヒトの身体・遺伝子・記憶は、森や自然、さらにそれらをとりまく環境を活かして生存するようにつくられていきました。つまり、木が好きな気持ちや木への愛着心は本能の現れなのです。木のある自然環境でリラックスした気持ちになるのも自然な生理的反応です。

私は初めて「ヒトは木のお陰で生きることができた」という歴史を知ったとき、頭の中のモヤが晴れたようで、とても嬉しくなりました。

今までうまく説明できなかった、木が好きな想いがなぜ湧き出てくるのか納得できたためです。また、木はどうして身体に良いの?と聞かれたときに、歴史や背景を楽しくお伝えできると思ったことも理由です。

 

客観的な実験によって、木のもつ成分と見た目が人の身体にリラックス効果をもたらせてくれることも分かりました。

また実験は木が好きな人を対象に行ったわけではありません。木が好きではないと答えた人からも、同じような結果が得られています。人の身体というものは、環境に対して実に正直にできているなと実感します。

木の力で自律神経は良好な状態となり、免疫機能は正常に保たれ病気の予防にもつながるのです。

これまで木が好きな気持ちや、木が身体に良いという思いは主観でした。人の脳や身体を計測する方法も、アンケートやインタビューなど主観的なものでした。

しかし宮崎先生の研究は、人が木を求める気持ち・木に対する親近感を科学的に証明する革命的なデータとなりました。

私は宮崎先生の講演で、この木材によるリラックス・セラピー効果を実際にお聞きして、とても感銘を受けました。多くの方々の病気の予防に役立ち、より健康的な生活を実現する道が、今まで以上に具体的かつ理論的に開かれたためです。
木のもつ力、素晴らしい効能をもっと多くの方々に知っていただけたらとも思いました。木の力で自律神経は良好な状態となり、免疫機能は正常に保たれ病気の予防にもつながるのです。

 

住まいで過ごす時間は人生の1/3以上、多い人であれば1/2以上に達します。オフィスでも同様です。昨今ではテレワーク進展によって、自宅が仕事場になった方もかなり増えました。

木を過ごす空間にうまく取り入れて、日々のストレスを改善し心身ともにリラックスできる住まいやオフィスなどが、より必要な時代になってきているといえるでしょう。建築に木の恵みを調和させることで、日々の生活はより心地よく安心できるものにもなり、明日への活力を養ってくれると思います。

無塗装の無垢の木と自然素材の珪藻土に包まれた空間

 

 

今回の実験についてさらに詳しく知りたい方にオススメの本 →
木材セラピー: 木のやさしさを科学する

 

最後までご覧いただきありがとうございます。

ご感想やご質問などあればお気軽にメッセージいただければと思います。

 

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